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神戸地方裁判所 昭和53年(ワ)1029号 判決 1984年9月28日

原告(兼反訴被告。以下「原告」という)

兼松江商株式会社

右代表者

高橋武己

右訴訟代理人

山田作之助

羽尾良三

被告(兼反訴原告。以下「被告」という)

株式会社トーメン

右代表者

武内俊夫

右訴訟代理人

谷本二郎

松浦武

鈴木吉五郎

畑村悦雄

岡野良治

被告

株式会社城戸組

右代表者

城戸武治

右訴訟代理人

永松達男

岡本耕二

主文

一、被告らは各自原告に対し金七一八万九、四三〇円及びこれに対する被告株式会社トーメンについては昭和五三年一〇月六日から、被告株式会社城戸組については昭和五三年一〇月七日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告は被告株式会社トーメンに対し金五二三万九、二二五円及びこれに対する昭和五〇年一二月一日より支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三、原告の被告らに対するその余の各請求はこれらをいずれも棄却する。

四、訴訟費用は五分し、その三を原告の、その一を被告株式会社トーメンの、その一を被告株式会社城戸組の負担とする。

五、この判決は原告において金二四〇万円の担保を供したときは原告は主文第一項につき、また被告株式会社トーメンにおいて金一七〇万円の担保を供したときは被告株式会社トーメンは主文第二項につき、それぞれ仮に執行することができる。

六、被告株式会社トーメンにおいて金三六〇万円の担保を供したときは、原告の前記主文第一項の仮執行を免れることができる。

事実

(昭和五三年(ワ)第一、〇二九号損害賠償請求事件(本訴)について)

第一、原告は、「(1)被告らは原告に対し、各自金二、九五〇万三、六七一円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である被告株式会社トーメンについては昭和五三年一〇月六日から、被告株式会社城戸組について昭和五三年一〇月七日から各支払済に至るまで年五分の割合によるそれぞれ金員を支払え。(2)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、本件売買取引と原告の損害発生の経緯について

(一)、原告及び被告株式会社トーメン(以下「被告トーメン」という)は、いずれも総合商社であり、また被告株式会社城戸組(以下「被告城戸組」という)は倉庫業者である。

(二)、原告は、昭和五〇年六月二三日ころ、訴外浜田商店こと浜田和正(以下「浜田」という)より被告城戸組倉庫に入庫保管する鋼材を浜田から被告トーメンに売り渡す取引に介在してほしい旨依頼された。

(三)、そこで、被告トーメン担当社員が右売買交渉のために同年六月下旬ころ原告会社福岡支社を訪れた際、原告会社担当社員は浜田よりあらかじめ連絡を受け準備した売却目的物件の品名、数量、売却条件等を被告トーメン担当社員に示したところ、被告トーメン担当社員はこれらの中から選択し、結局、原告が浜田より同人所有でかつ被告城戸組倉庫に搬入保管する鋼材806.151トン(以下本件鋼材と称す)を同倉庫置場渡しの方法で購入すると同時に、被告トーメンは原告からこれを金四、〇三〇万一、二八一円で買い受け浜田より直接にその引き渡しを受ける旨約束した。

(四)、右商取引においては、原告は介在者にすぎず右取引も書類中心に行い本件鋼材の引き渡しには直接に関与するものではないうえ、原告会社担当社員は本件鋼材の入荷在庫状況について浜田より連絡を受けただけで未だその確認もしていなかつたので、被告トーメン担当社員に対し被告城戸組倉庫に出向いて本件鋼材の入荷とその在庫状況及びその受領を確認してくれるよう依頼したところ、被告トーメン担当社員は右事情を十分に認識して本件取引と右確認に応じた。

そこで、原告会社担当社員は、被告トーメン担当社員に本件売買契約書と物品受領書の各用紙及び荷渡依頼書を手渡し、被告城戸組倉庫置場で浜田から被告トーメンへの本件鋼材の引き渡しが済めばこれを確認し、同各用紙に被告トーメンの社印を押捺して原告に返送してくれるように依頼したところ、被告トーメン担当社員はこれを承諾した。

(五)、同年七月四日ころ、約束どおり、被告トーメンからその作成の右契約書及び物品受領書が返送されて来たので、原告は本件鋼材が被告城戸組倉庫に入庫保管され、その処分権を有する浜田より原告、被告トーメンへと順次売り渡されその引き渡しも完了したものと信じ、本件鋼材の代金支払手形を浜田に振出交付した。

(六)、ところがその後、被告トーメンは本件鋼材の引き渡しが済んでいないとして、被告トーメンが原告宛に振出交付したその代金支払手形の返還を求め、同年一一月三〇日の支払期日には同手形を供託不渡にした。

(七)、そこで、原告において調査したところ、被告トーメン担当社員は、被告城戸組担当社員が浜田の指図で作成した事実に反する本件鋼材の入荷報告書及び同出荷報告書の各記載事実を真実と思い込んで、本件鋼材の引き渡しが済んでいないのにこれが済んだ旨記載した事実に反する“物品受領書”を原告宛に作成交付したことがわかつた。

(八)、他方、浜田は昭和五〇年九月一〇日ころ事実上倒産したので、原告は浜田に対し支払済の本件鋼材代金の回収もまた同人に対する損害賠償の請求もできなくなり、結局後記損害を蒙つた。

二、被告らの過失について

原告は被告ら担当社員の左記過失により後記損害を蒙つた。即ち、

(一)、被告城戸組担当社員の過失につき

被告城戸組従業員日高孝子(以下日高と称す)は、被告トーメン担当社員より本件鋼材の入荷と在庫状況の確認を求められこれを承諾したのであるから、適切妥当な方法により正確な確認と回答をなすべき注意義務があるのにこれを怠り、当時安宅産業名義で同倉庫に在庫保管中の鋼材約六〇〇トンを本件鋼材806.151トンと誤信したり、またそのころ浜田に本件鋼材が既に在庫保管のままで原告から被告トーメンに引き渡された旨記載した入荷報告書の作成を依頼されたこともあつて浜田の言をそのまま信用し必要な調査確認も行うことなく、浜田所有の本件鋼材が未だ入庫保管されていないしまたこれが原告から被告トーメン、さらに株式会社佐藤商事(以下佐藤商事と称す)へと順次引き渡されていないのに、原告から被告トーメンに入荷した旨記載した入荷報告書及び被告トーメンから佐藤商事に出荷した旨記載した出荷報告書など事実に反した報告書を被告トーメン宛に作成交付したものであるから、日高には右報告書を作成交付するにつき少くとも過失のあつたことは否定できない。

(二)、被告トーメン担当社員の過失につぎ

被告トーメン担当社員は、本件売買が書類中心のいわゆる「つけ売買」であつて原告は本件鋼材の引き渡しには直接関与せず物品受領書に基づいてただ代金決済を行う立場にあることを知り、しかも原告会社担当社員から手渡された物品受領書用紙を用いて本件鋼材の在庫と引き渡し確認を行うことを承諾したのであるから、同物品受領書は本件売買の最も重要な確認書類であつてこれを発行するに当つては、適切妥当な方法により慎重かつ正確を期すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、日高に面会しただけで担当責任者には面会せず、しかも同人のあいまいな口頭報告を真実と軽信したり、また同人が浜田の指示で作成した前記事実に反する入荷報告書及び出荷報告書記載の事実を直ちに真実と軽信し、本件鋼材は未だ浜田所有物件として入庫保管されたり原告から被告トーメンに引き渡されていないにもかかわらず在庫のままでその引き渡しを受け終つた旨記載した事実に反する物品受領書を原告宛に作成交付したものであり、被告トーメン担当社員には、前記事実に反した物品受領書を作成交付するにつき少くとも過失のあつたことは否定できない。

三、原告の蒙つた損害について

(一)、本件鋼材が原告から被告トーメンに引き渡されなかつたので、原告は浜田に対してその支払済の代金の返還を求めうる地位にあつたが、被告トーメンより原告に右引き渡しがなかつたことが通知される以前に浜田は事実上倒産していたので、原告は浜田に対し右支払代金の返還を求めたりあるいは損害賠償請求をすることもできなくなり、結局、原告は次の損害を蒙つた。即ち、

原告が被告トーメンに売り渡した本件鋼材の一部は、浜田の都合で訴外九州興機株式会社(以下「九州興機」という)を経由して仕入れられたため、原告が直接浜田に決済した本件売買代金額は、原告の浜田に対する反対債権との相殺額金九八六万二、九九〇円と浜田に対する手形支払分の金一、九六四万〇、六八一円の合計金二、九五〇万三、六七一円であり、これが原告の蒙つた損害額である。

(二)、原告の右損害は被告ら担当者らの前記共同過失行為により発生したものである。

即ち、前記日高が前記過失により真実でない前記報告書を作成交付しなければ、被告トーメン担当社員も原告に対し前記過失により真実でない前記物品受領書を発行しなかつたのであり、かつ被告トーメン担当社員作成の前記物品受領書がなければ原告は浜田に対し本件鋼材代金の支払を拒んだものである。

してみると、被告ら担当社員らの前記過失の競合による真実でない報告書及び物品受領書等の作成交付により原告の前記損害が発生したことは明白であるが、これは本件のような商取引においては通常発生する普通の損害であり、しかも被告ら担当者らにおいても容易にその損害の発生を予測しうるところである。

四、被告らの損害賠償責任について

原告は、被告城戸組担当社員の前記過失により作成した前記事実に反した本件鋼材入荷報告書及び被告トーメン担当社員が前記過失により同本件鋼材入荷報告書に基づいて作成した前記事実に反した物品受領書を原告に交付したことにより、さらに被告トーメン担当社員が本件鋼材の引き渡しを受けていないことを知りながら直ちに原告にその通知をしなかつたために、原告は前記損害を蒙つたのであるから、被告らはその各担当社員らがその業務遂行過程において前記過失により原告に与えた損害につきその使用者として原告に対しそれぞれ損害賠償責任を負うものである。

五、よつて、原告は被告ら各自に対し、右損害金二、九五〇万三、六七一円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日(被告トーメンについては昭和五三年一〇月六日、被告城戸組については同月七日)より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

第二、被告トーメンは、「(1)原告の請求を棄却する。(2)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決及び担保を条件とする仮執行免脱宣言を求め、原告主張の請求の原因事実に対する答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

一、答弁について

(一)、請求の原因一項の(一)、(六)及び(七)記載の各事実はいずれも認める、同一項の(二)及び(八)記載の各事実はいずれも不知、同一項の(三)及び(四)記載の各事実はいずれも否認する、同一項の(五)記載の事実のうち、被告トーメン担当社員は原告主張の売買契約書及び物品受領書の各用紙に捺印のうえ原告に返送したことは認め、その余の事実は否認する。

(二)、同二項記載の事実中、同(一)の被告城戸組担当社員が原告主張の前記事実に反した入荷報告書を作成したことにつきその主張の過失があつたことは認めるが、同(二)の被告トーメン担当社員に原告主張の過失があつたことは強く争う。被告トーメン担当社員は、前記物品受領書を作成するにつき、被告城戸組倉庫に出向き実地で同担当社員の現品確認の報告、さらに書類上の調査確認とりわけ被告城戸組作成の本件鋼材の入荷報告書記載の事実を信用しこれに基づいて作成したものであるが、同報告及び報告書が事実に反していたことなどは全く予見できなかつたし、また本件の場合のように、倉庫に大量に保管中の商品を品質、数量などにつき現品確認をすることは極めて困難なことであり右の方法以上の調査確認は過酷な要求なので通常は期待できない(特に疑問があればともかくも、当時本件鋼材とまぎらわしい安宅産業所有名義の鋼材六〇〇トンが入庫中)ので、被告トーメン担当社員には原告主張のような過失があるとはとうていいえない。

なお、被告トーメンは原告及び被告城戸組に欺罔された被害者の立場にあり、原告主張のような被告城戸組と共謀による共同不法行為者の関係に立つものではない。

(三)(1)、同三項の(一)記載の原告の損害とその額は全て争う。仮に原告が損害を蒙つたとしても、それは原告の現実の支払額に限られるべきであり、原告主張の相殺額は損害額とはいえない。

(2)、同項の(二)記載の原告主張の因果関係の存在は争う。即ち、原告の損害と被告トーメン担当社員が原告宛に前記物品受領書を作成交付したこととの間には困果関係はない。原告はその主張の物品受領書の入手以前に浜田に対し本件鋼材の代金支払をしていた。また被告トーメンが本件鋼材の引き渡しのないことを知つた時には、原告は浜田に対し既に右代金の支払を済ませていた。

してみると、原告の損害は被告トーメンとは全く無関係である。

二、過失相殺の抗弁について

(1)、被告トーメンは昭和五〇年六月下旬ころ浜田の依頼により原告が佐藤商事に鋼材を売り渡す取引について介在を求められて承諾した。その結果、浜田は安宅産業から本件鋼材806.151トンを買い受け被告城戸組倉庫で保管することとし、他方、原告は浜田から同鋼材を買い受けて被告トーメンに、被告トーメンは佐藤商事にいずれも同在庫のまま順次売り渡すという一連の売買がなされた。

(2)、右売買の際、原告は被告トーメンに対し、本件鋼材は安宅産業の所有物件で浜田所有物件ではなくまた浜田所有物件としての本件鋼材806.151トンは同倉庫に搬入保管されていないのに、事実を秘して浜田が既にその処分権を取得しこれを同倉庫に搬入保管していることを当然の前提として売り渡した(被告トーメンとしても右前提の下に原告の依頼により本件鋼材の在庫と引き渡しの確認を安易に引き受けた)うえ、売主として被告トーメンに本件鋼材の所有権を移転したりその引き渡しを行う義務があり、またその前提として本件鋼材所有権の取得や本件鋼材の在庫状況の調査確認をする義務さえあるのに、本件鋼材の所有権の帰属とその存在と引渡しの確認など売主として当然なすべき義務の履行を全く行わずにかえつて買主たる被告トーメンに転嫁一任し(被告トーメン担当社員が承諾したとしても前記前提が異るために原告の売主としての前記義務が当然に解除されるものではない)たり、原告は浜田と取引を継続して来たのでその信用状態が芳しくないことを十分に知りながら浜田に対し本件売買が確実に行われたか否かの調査確認など全く行わずに浜田の言をそのまま信用し、同人に本件鋼材の処分権がありしかも本件鋼材は右倉庫に在庫保管され原告がこれを買い受けたとして被告トーメンにこれを売り渡しあまつさえ原告から被告トーメンへのその引き渡しを浜田に一任したり、原告は被告トーメンより前記物品受領書を取得するや浜田に対し本件鋼材代金の支払を異常にも急ぎ行つており、原告の右一連の行為は原告の損害発生と拡大を誘発助長させる主因となつたことも否定できない。他方、原告がほんの僅かの注意と調査確認さえ怠らなければその損害の発生は容易に防止しえたことも明らかである。

してみると、原告は自らの落度のあつた行為を不問にして被告トーメンの落度のみを一方的に追及して損害賠償請求するもので信義則上許されないことであり、原告の損害額の算定に当たつては原告の前記一連の落度のある行為も十分に斟酌されるべきである。

第三、原告の過失相殺の主張に対する答弁について

(1)、被告トーメン主張の過失相殺の抗弁は全て争う。即ち、原告は被告トーメンより浜田と被告トーメン間の本件鋼材の売買に介在することを依頼され売買当事者としてこれに介在したが、右売買はその目的物件を被告城戸組倉庫に在庫保管したまま書類中心に転々と行われるいわゆる「つけ売買」であり、原告は書類に基づく代金決済の関係で関与するが目的物件の引き渡しの関係では全く関与しない立場にあつた。被告トーメン担当社員も本件売買が通常の売買とは異つたいわゆる「つけ売買」であることは十分に認識して原告と本件売買を行い、本件鋼材の在庫と引き渡しの確認までも引き受けた。

(2)、してみると、原告としては取引書類を中心に本件売買を行いその義務を履行すれば足り、それ以上に本件鋼材の在庫確認や引き渡しの義務を負うものではない。事実、原告は買主の被告トーメンが実地に出向き現品確認のうえ作成した前記物品受領書に基づいて本件鋼材の原告から被告トーメンへの売り渡しを確認したうえ浜田に本件鋼材代金の支払をしたのであるから、原告には被告トーメン主張の落度は全くない。また、被告トーメンとしても物品受領書まで作成交付しこれを信用して損害を蒙つた原告からの賠償請求に対して今更本件鋼材の引き渡しを受けていないなどと述べてその責任を免れることは信義則上とうてい許されない。なお、原告は被告トーメンに本件鋼材が既に被告城戸組倉庫に入管されしかも浜田がその処分権を有しているなど述べたり、あるいはこれを前提に本件売買をしたことはない。浜田からの説明をそのまま伝えたところ、被告トーメン担当社員がそのように推測したまでのことである。

第四、被告城戸組は「(1)原告の請求を棄却する。(2)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求の原因事実に対する答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

一、答弁について

(一)、請求の原因一項の(一)ないし(八)記載の各事実中、同(一)の被告城戸組の業務内容及び同(七)の被告城戸組にかかる部分のみはいずれも否認するが、その余の事実は全て不知。

(二)、同二項の(一)記載の日高の過失については争う。同(二)の被告トーメン担当社員の過失については不知。

(三)、日高に原告主張の過失のないことは次の理由により明らかである。

(1)、被告城戸組は、昭和五〇年六月ころ、訴外晴海鋼業(以下「晴海鋼業」という)送りの鋼材約六〇〇トンを訴外若松福輸(以下「若松福輸」という)の満村より依頼され倉庫業者としてではなく倉庫内に一時錆防止のため保管したが、預り証券は発行しなかつた。

(2)、日高は、右鋼材の晴海鋼業の名のところに小さく浜田と書いていたことから、浜田において右物件の指図権限があるものと思つていた。

(3)、原告は、昭和五〇年六月二〇日すぎころ、浜田より鋼材の取引を申し込まれ、浜田の言に従つて現物が右倉庫に現存し浜田にその処分権があるものと信じていたが、浜田より被告城戸組に対する原告宛の荷渡指図書の交付も受けずまた現品の確認も全くしないまま、何ら指図する権限もないのに被告城戸組に対する被告トーメン宛の荷渡依頼書を作成交付した。

(4)、被告トーメンは、何ら指図する権限もないのに同年七月二日ころ、佐藤商事への荷渡指図書や同発行通知書を日高に交付して被告城戸組を指図したり、被告トーメン担当社員が浜田と共に同倉庫に入つて現品の確認をすると云う誤ちを犯した。

(5)、浜田は同月四日日高に入荷報告書の作成を要求したのであるが、日高としては倉庫業者として預つたものでない右物品につき荷渡指図書を交付することを躊躇したものの、大手商社の被告トーメンの指図もあることでもあり、在庫物品については権限のある浜田の指図に従うのは当然のことと考え、また不足する物品にについてもいずれ入荷すると若松福輸から聞いていたことでもあつたので、浜田の要求に応じ入荷報告書を作成交付した。

(6)、従つて、日高としては右理由により在庫鋼材につき入荷報告書を作成すべきではないが、絶体に迷惑をかけないという浜田の言を信じて、また不足分が入荷されるものと思い込んで、ただ確認的意味(当時鋼材約六〇〇トンは存在した)で右入荷報告書等を作成した。その際日高は、右報告書には社印も担当者欄の印も押捺していなかつたので、右報告書に基づいて被告トーメンの物品受領書が発行され、さらに同物品受領書に基づいて原告の代金支払が行われることなど全く予見不可能であつた。

従つて、日高はいずれの点からみても全く過失がなかつた。

(四)(1)、同三項の(一)記載の原告の損害の発生とその額は争う。仮に原告に損害が発生したとしても、それは原告が実際に支払つた額に限定されるべきであつて、原告主張の相殺による決済額は相殺無効というに留まり原告の損害額とはいえない。

(2)、同三項の(二)記載の因果関係は強く争う。

①、被告城戸組作成の入荷報告書には本件鋼材806.151トンが入荷した旨記載されたが、昭和五〇年七月四日現在では被告城戸組倉庫に鋼材582.6トンが入荷していた。ところで、入荷報告書は単に入荷物品の在庫通知書であつて、これを受領した被告トーメンは物品の占有権を取得してもその所有権を取得することはない。事実、被告城戸組倉庫に入荷した物品の所有者は安宅産業であつた。従つて、入荷報告者記載の数量が真実に合致したとしても原告及び被告トーメンは結局入荷物品の所有権を取得することはできない。原告が浜田に対し本件鋼材代金を支払つたのは、売買契約の効力として代金支払義務を負担したからであつて、入荷報告書又は物品受領書の存在は代金支払の契機ないし事情にすぎず、その原因ではない。

してみると、真実でない入荷報告書を発行したことと原告の浜田に対する代金支払との間には法律上の因果関係を欠くものといわざるをえない。即ち、入荷報告書の記載が真実に合致し、それを契機として原告が浜田に代金を支払つたとしても、結局原告が本件鋼材の所有権を取得してこれを被告トーメンに移転することができない限り被告トーメンからの代金の支払がえられず、原告は浜田に支払つた代金の損害を蒙れえないからである。

②、仮に原告の損害が真実に反した入荷報告書により発生したとしても、原告は日高作成の入荷報告書に基づいて作成された前記物品受領書を被告トーメンから受取る以前に浜田に対し本件鋼材代金を支払つているのであるから、日高の入荷報告書の作成と原告の損害との間には因果関係はない。

③、仮に右①②がいずれも認められないとしても、被告城戸組の賠償責任は前記入荷報告書記載の事実が真実に合致した限度で免責され、真実に反する数量記載の割合に応じて賠償責任があるところ、浜田が入荷した鋼材は昭和五〇年七月四日当時582.6トン存在したのでその記載限度で被告城戸組の賠償責任はないことになる。

二、被告城戸組の主張及び抗弁について

(一)、原告主張の損害についての被告城戸組の主張につき

仮に、原告の損害と日高が前記入荷報告書を被告トーメン宛に作成交付したこととの間に原告主張の因果関係があつたとしても、日高には原告の損害発生と浜田の倒産によるその回復可能性のないことにつき全く予見不可能であつたので、被告城戸組にはその賠償責任はない。

①、日高の行為が原因となつて原告の浜田に対する支出行為があつたとするには、原告と浜田との間に売買契約がありその代金が未払いという特別事清がなければならないが、被告城戸組に対し浜田から原告への荷渡指図書が発行された形跡もないし、原告が物品の確認に来たこともないのであるから、日高としては右特別事情は予見不可能なことであつた。社印も担当者印もない入荷報告書と原告の代金支払、さらに原告の損害発生との間には相当因果関係は認められないし、また日高としても全く予想しえなかつた。ましてや、日高としては右入荷報告書発行の当日中に原告が浜田に手形を交付することなど全く予見不可能なことであつた。

②、また、原告が浜田に弁済しても弁済は無効であるから不当利得返還請求権を有するにすぎないが、弁済が損害といいうるためにはその回復可能性のないことが要件となり、この点も特別事情として予見可能性を要するところ、浜田が昭和五〇年九月に倒産し原告がその回収不能となつたことは、日高としては全く予見不可能であつた。

してみると、原告の損害は特別事情に基づく特別の損害であるが、被告城戸組にはその予見可能性が全くなかつたのでその賠償責任はない。

(二)、過失相殺の抗弁につき

原告の損害は原告の過失も加わり、むしろこれが主因となつて発生したものであるので、自己の落度を棚にあげ日高の落度のみ一方的に追及することは許されず、その損害額の算定においては原告の過失は十分に斟酌されるべきである。

(1)、原告は本件鋼材が前記のとおり在庫しかつ浜田に処分権があるものと速断し、自己に何らの指図権限もないのに被告城戸組に対し被告トーメンへの荷渡依頼書を作成交付したという誤ちを犯したことが原告の損害発生の主因となつているが、さらに左記事情をも合わせ考えると、原告の過失責任は決定的である。

①、本件取引は量も多いし、金額も大きかつた。

②、本件のように荷渡依頼書を発行するケースは原告と被告トーメン間では今迄にはなかつた。

③、本件鋼材については預り証券は発行されておらず、荷主又は浜田から原告への荷渡指図書等の原告の権限を証明する文書は全く存在しなかつた。

④、原告は現品確認を全くしなかつた。

(2)、他方、原告はほんの僅かの注意さえ払えばその損害の発生と拡大を容易に防止できた。とりわけ、原告は浜田への支払いを異常に急いでいたが、その支払いを通常の支払時期の翌月廻しにしておれば、その損害発生は防止できた。

第五、原告の被告城戸組の主張及び抗弁に対する答弁について

(一)、原告の損害は決して被告城戸組主張のような特別事情により発生した特別の損害ではない。日高作成の前記入荷報告書はたとえ社印や担当者印がなかつたとしても単なる社内文書ではなく、一旦同報告書が作成交付された以上は、その宛先の被告トーメンばかりでなくこれに基づいて取引した多数関係者も同記載の事実が当然に存在したものとしてその後の取引を行うのが通例であり、とりわけ倉庫業を営む被告城戸組においてはかかる取引の実情は十分に認識しているところであり、また同報告書に虚偽の記載があると同記載の事実に基づいて取引した者が損害を蒙ることも当然に予期されることであり、これが特別事情に基づく特別の損害とはとうていいえないし、日高においても決して予見不可能なことではない(被告城戸組主張のように損害の発生原因、被害者、額などにつき詳細かつ具体的な予見可能性までは必要でない)。

また事実、原告は日高作成の前記入荷報告書に起因してその主張の損害を蒙つたのであるから、右報告書作成と原告の損害との間には事実上も法律上も因果関係の存在が優に肯認される。

(二)、原告は被告城戸組主張の過失相殺の抗弁は全て争う。本件取引はいわゆる「つけ売買」であり、原告は書類中心に慎重に取引をして来たしまたそれで足りるところ、原告のその取引には書類上は何んら落度はなかつた。その詳細は原告が被告トーメン主張の過失相殺の抗弁に対する答弁として述べたのと同じである。また、原告は浜田に対し代金支払を異常に急いだこともない。原告は被告トーメン作成の本件鋼材の受領書を受け取つたので本件鋼材の引き渡しが済んだものと思つて代金を支払つたものであり、これはこの種取引において行われる通常の代金支払方法にすぎない。

(昭和五三年(ワ)第一、一三〇号損失金請求(反訴)事件について)

第一、被告トーメンは、「(1)原告は被告トーメンに対し金五二三万九、二二五円及びこれに対する昭和五〇年一二月一日より支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。(2)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣告を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は浜田を通じて被告トーメンに対し、昭和五〇年七月一日、原告が訴外佐藤商事株式会社(以下「佐藤商事」という)に鋼材を売り渡す売買の介在を求めた。そしてその際、原告は鋼材の現品は被告トーメン倉庫に在庫している旨言明した。そこで、被告トーメンは佐藤商事に対し原告申出の趣旨及び同取引の承諾の有無を確認したところ、佐藤商事は原告より予め右商取引の経路及び取引内容等について聞き既に承諾しているから被告トーメンとの右商取引に応ずる旨回答したので、同月二日被告トーメンは原告に対し原告より買受ける鋼材をそのまま佐藤商事に売り渡す趣旨及び目的で原告と被告トーメン間に左記売買契約がなされた。

①  売買目的商品 鋼材806.151トン

②  引渡場所 被告城戸組倉庫置場渡し

③  引渡方法 原告発行の荷渡依頼書を被告城戸組に対し交付したときに占有改定の方法により引き渡す。

④  売買代金 金四、〇三〇万一、二八一円

⑤  代金決済方法 昭和五〇年一一月三〇日支払期日の約束手形で支払。

二、被告トーメンは、原告が右売買契約を履行するものと信じ、同月二日ころ佐藤商事に対し、前記鋼材を売買代金以外は全て前記同一条件として売買契約をした。

なお、右売買価格は、原告からの買受価格に金四〇万三、〇七一円の利益を加算した金四、〇七〇万四、三五二円と定めた。

しかし、その後本件鋼材の現品は被告城戸組倉庫に存在しないことが判明したので、被告トーメンは原告に対し同年一一月四日付書面で来る一一月一四日までに現品を引き渡すように催告し、同時に同履行がないときは同日付で前記売買契約を解除する旨停止条件付催告をもしたが、原告は右履行をしなかつたので同日同契約は解除された。そのため、被告トーメンは、佐藤商事に対する前記売買契約の履行が不能となり、その結果金四〇万三、〇七一円の得べかりし利益を喪失した。

三(1)、被告トーメンは原告に対し、昭和五〇年八月二九日ころ、前記売買契約履行のために原告の請求により、被告トーメン振出の昭和五〇年一一月三〇日支払期日の額面三、〇〇〇万円、同金一、〇〇〇万円、同金三〇万一、二八一円の三通の約束手形を振出交付していたので、前記売買契約解除に伴い同約束手形三通の返還を求めたが、原告はこれに応じないのみか手形上の権利行使が許されないものであることを知りながらも信義に反し支払期日にその支払を求め支払場所で呈示した。

(2)、そこで、被告トーメンは不渡防止のためにやむなく右約束手形三通の合計金四、〇三〇万一、二八一円を供託した。そして、右供託は手形交換規則により最底ママ二年間(手形不渡り措置回避に必要な期間)は無利息で持続しなければならなかつたことにより、その期間中同金額に対する銀行借入利息金相当額の損害を蒙つた。しかしながら、被告トーメンは同額に対する銀行借入利息金相当額を算出するのは困難であるから、右借入利息額の範囲内であることが明らかな年六分の割合による右二年間の金四八三万六、一五四円に限つて損害金として請求する。

(3)、よって、被告トーメンは原告に対し、逸失利益金四〇万三、〇七一円及びこれに対する佐藤商事の代金支払予定日であつた昭和五〇年一一月三〇日の翌日以降並びに右利息金相当額の損害金四八三万六、一五四円及びこれに対する供託日である昭和五〇年一二月一日以降支払済に至るまでそれぞれ年六分の割合による金員の各支払を求める。

第二、原告は「(1)被告トーメンの請求はこれを棄却する、(2)訴訟費用は被告トーメンの負担とする。」との判決を求め、被告トーメン主張の請求の原因事実に対する答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

一、答弁について

(一)、請求の原因一項記載の事実中、被告トーメン主張の売買契約がその主張の当事者間に締結されたこと、その売買目的商品、引渡場所、売買代金及び代金決済方法等の約定内容は認め、原告から被告トーメンに対してその主張の要請や言明をしたこと、その引渡方法についての約定内容は否認し、被告トーメンと佐藤商事間の交渉内容は不知。

(二)、同二項記載の事実中、被告トーメンと佐藤商事間に本件鋼材の売買契約が締結されたこと、被告トーメンは原告に対しその主張の催告をしたことは認め、その売買価格は不知。その余の事実は争う。

(三)、同三項の(1)記載の事実は認める。ただし、原告の手形呈示が手形上の権利行使の許されないものであることを知りながら信義に反してされたとの主張は争う。

同項の(2)記載の事実中、被告トーメンがその主張の供託をしたことは認め、その余は争う。同項の(3)の主張は争う。

二、抗弁について

仮に、被告トーメンがその主張の損害を蒙つたとしても、被告トーメンには前記過失(同第一、〇二九号事件で原告が主張したとおり)がありその損害も自ら招来した損害にすぎないので、原告にはその賠償責任はない。

仮に、原告にその賠償責任があるとしても、被告トーメンの前記過失はその損害賠ママの算定においては十分に斟酌されるべきである。

第三、被告トーメンの原告主張の過失相殺の抗弁に対する答弁について、被告トーメンは、原告主張の過失相殺の抗弁を全て争うと答えた。その詳細は被告トーメンが前述したとおりである。とりわけ被告トーメンには原告の本件債務不履行との関係では全く過失はなく、原告の過失相殺の抗弁は失当である。

(証拠の関係)<省略>

理由

第一、前記(ワ)第一、〇二九号損害賠償請求(本訴)事件について

一、請求の原因記載の事実中、原告及び被告トーメンが総合商社であることについては当事者間に争いがない。

二、本件取引と原告の損害発生について

<証拠>を総合すると次の事実が認定でき、同認定に反する<証拠>の各一部は前記各証拠に照らしにわかに措信できず、他に同認定を左右するに足りる証言はない。

(1)  浜田は、昭和四三年七月ころから浜田商店の屋号で鋼材販売業を営んでいる者であるが、昭和五〇年五月ころ、前記晴海鋼業が安宅産業へ鋼材806.151トンを売り渡す契約の仲介をし、右鋼材のうち約七〇〇トンが運送業者の若松福輸により同年五月二四日ころから同年七月一八日ころまでの間に、被告城戸組倉庫に右晴海鋼業名義で入荷された。

(2)  浜田は、安宅産業から右鋼材806.151トンを買い受けるべく同会社と交渉する一方で、右鋼材をかねて浜田と取引がありその取引における支払条件のよい原告を通じて佐藤商事に転売しようと考え、同年六月二〇日ころ原告会社福岡支店鉄鋼課長西本春男、同課員藤家正勝に話したところ、原告には佐藤商事と直接取引する与信枠がないから信用のある会社を介在させるように要請されたので、原告と佐藤商事との間に大手の商社である被告トーメンを介在させようと考え、同月二六日ころ、被告トーメン福岡支店鉄鋼課員山田敬一に対し、原告から佐藤商事への右鋼材の売買の中間に介在してくれるよう依頼した。

しかしその当時、浜田と安宅産業との間では未だ右鋼材806.151トンの売買契約は成立しておらず、かつ被告城戸組倉庫には右鋼材の一部である鋼材六〇〇トン余りが晴海鋼業名義で搬入保管されているにすぎず、さらに、同年六月末ころには、鋼材の値下り等の事情により浜田と安宅産業間の右売買契約の成立は困難な事情にあり、また浜田の経営状況も不安定で芳しくなかつたが、浜田は原告及び被告トーメンの前記各担当者らに対し右事情を秘し、被告城戸組倉庫には浜田が安宅産業より買受けた浜田所有の鋼材806.151トン(本件鋼材)が現存しているものとして、前記売買契約の交渉を続けた。

(3)  同年六月末ころ、浜田は原告との間で、本件鋼材806.151トン(内245.445トンは最終的には原告の関連会社の九州興機を通じて原告に売り渡すこととなつた)を代金三、九三七万二、四〇九円で被告城戸組倉庫置場渡しで売り渡す契約を締結し、右鋼材の規格、数量、単価等の明細を記載した請求書を原告に交付したが、被告城戸組に対する原告への本件鋼材の荷渡依頼書は原告に作成交付しなかつた。

(4)  他方、同年七月一日、浜田より売買の介在の依頼を受けた被告トーメン福岡支店鉄鋼課長猪渡和男及び同課員山田敬一は、原告会社福岡支店を訪れ、前記西本春男及び藤家正勝と本件売買契約の交渉をした。

その際、原告会社の右担当者らは、被告トーメンの右担当者らに対し、浜田が本件鋼材806.151トンを買い受け被告城戸組倉庫に搬入保管しておらず、従つて浜田からこれを買い受けた原告もその所有権を取得して右在庫保管していないにもかかわらず、浜田から本件鋼材806.151トンを買い受けこれを被告城戸組倉庫に搬入保管していることを当然の前提として、浜田作成の前記請求書に基づいて原告が予め作成していた原告と被告トーメン間の本件鋼材の売買契約書六通、納品書五通、請求書五通、原告から被告城戸組に対する荷渡依頼書五通、物品受領書五通を被告トーメン担当者らに交付し、被告トーメン担当者らにおいて本件鋼材の在庫と引き渡しを確認し、それが確認済のときは右契約書及び物品受領書の各用紙の所定欄に被告トーメンの会社印を押捺のうえ返送するように依頼し、被告トーメン担当社員らはこれを了承して右書類を会社に持ち帰つた。

(5)  前記山田敬一は、帰社後直ちに佐藤商事に対して本件鋼材の売買の交渉をしたところ、佐藤商事がこれを買い受ける旨の返答をしたので、前記藤家正勝に対し電話で本件売買契約を締結する旨の連絡をし、さらに同年七月二日か三日ころ、原告から受領したと同様の契約書等を佐藤商事に交付した。

(6)  同月三日ころ、被告トーメン担当社員山田敬一は、原告作成の前記荷渡依頼書を所持して被告城戸組に出向き、同事務員日高孝子に右荷渡依頼書記載の本件鋼材の在庫の有無を尋ねたところ、日高は同倉庫には鋼材が大量に保管されていたために全部につき個々的に現物確認はできないがその鋼材なら概ね在庫している旨あいまいな回答をしたので、日高に対しなお書類によつても確認してくれるよう依頼した。

(7)  なお、同年七月四日当時、被告城戸組倉庫には安宅産業所有の鋼材五八〇トン余りが在庫保管されているにすぎなかつたが、同日ころ、浜田は日高に対し迷惑はかけないから原告が被告トーメンに売り渡した本件鋼材806.151トンは既に原告から被告トーメンに引き渡された旨記載のある入荷報告書六通を作成してくれるよう執拗に依頼し、日高はそのころ前記山田敬一から本件鋼材の在庫確認を依頼されたうえ浜田からも執拗に右依頼を受けたので、浜田の言を信用し浜田の依頼どおりの前記報告書六通を作成し、これを浜田の指示どおり浜田商店事務員に持参させて被告トーメン福岡支店に届けた。

(8)  同日、前記入荷報告書を受領した被告トーメンの前記担当社員は、原告から本件鋼材806.151トンを被告城戸組倉庫に在庫のままで引き渡しを受け終つたものと判断して、前記売買契約書及び物品受領書の各用紙の所定欄に被告トーメンの会社印を押捺し、前記浜田商店事務員は同日これら書類を原告に持参して届けた。他方被告トーメン担当社員は同日ころ佐藤商事に対しても本件鋼材を被告城戸組倉庫に在庫のままで売り渡す旨の売買手続を完了した。

(9)  同月四日、原告は被告トーメンより約束どおり同会社作成の前記売買契約書及び物品受領書の返送を受けたので、原告は同物品受領書により同書記載どおりに被告城戸組倉庫に保管中の本件鋼材が原告から被告トーメンに引き渡されたものと判断して、右浜田商店事務員を介して浜田に対し後記のとおり本件鋼材の売却代金を支払つた。

(10)  ところが、同年七月末ころ、浜田と安宅産業間の鋼材806.151トンの売買交渉は決裂し、他方安宅産業は当時被告城戸組倉庫に在庫保管していた鋼材約七〇〇トンについても晴海鋼業と売買を成立させて搬出し、浜田は本件鋼材の所有権を取得しこれを原告、被告トーメン、さらに佐藤商事へと順次その所有権移転とその引き渡しを行うことができなくなつた。

(11)  同年九月中旬ころ、佐藤商事は、被告トーメンから買い受けその引き渡しまでも受け終つた筈の本件鋼材806.151トンが被告城戸組倉庫に在庫していないことを知つて、被告トーメンにその旨連絡し、次いで同月一八日には被告トーメンに対し債務不履行を理由に前記売買契約を解除した。

(12)  被告トーメン担当社員山田敬一は、佐藤商事から右通知を受けた直後に調査のために被告城戸組に赴いたところ、浜田や原告が所有し在庫保管することを当然の前提として売買した本件鋼材は安宅産業の所有物件でありかつ当初より同倉庫には浜田又は原告所有物件として在庫保管されていなかつた旨の回答を得たので、被告トーメンは原告に対し債務不履行を理由として前記売買契約を解除し、被告トーメンが原告宛に振出交付した本件鋼材の売買代金支払のための約束手形三通の返還を求めたが、原告はこれに応じずにかえつてその支払期日に支払呈示までしたので、被告トーメンは同年一一月三〇日のその支払期日に同約束手形三通を供託不渡とした。

(13)  原告は、浜田が約束に反し本件鋼材の所有権を取得してその引き渡しを行わなかつたので、その結果被告トーメンにその所有権の移転と引き渡しを行うことができなくなり、これがために浜田に対し原告が既に支払つた本件鋼材の売買代金の返還を求めうる地位にあつたが、浜田は右所有権の移転や引き渡しの行われなかつたことが被告トーメンより原告に通知される以前に事実上倒産し、原告は浜田に対し右代金の返還を受けることも損害賠償請求により損害額の回収を受けることも事実上不可能となり、結局原告は後記損害を蒙るに至つた。

(14)  原告は被告トーメンに当初は本件鋼材806.151トンを売り渡すこととしていたが、内245.445トンは浜田の都合で原告の関連会社の九州興機を経由して仕入れ同売買代金一、一五三万五、八四四円と原告の九州興機に対する反対債権とを対等額で相殺して決済したのでこれは原告の損害にはならなかつたし、また原告が浜田との間で本件鋼材の代金支払方法として相殺により決済した金九八六万二、九九〇円の代金債権は原告の損害とはいえない(原告の浜田に対する債権も消滅しているが、同相殺が無効であれば同反対債権が残る)ので、結局原告が浜田に対し本件鋼材代金の決済により蒙つた損害は、原告が浜田に本件鋼材の売買代金として現実に支払つた金一、七九七万三、五七五円である(原告が本件鋼材代金の決済として九州興機と相殺した金一、一五三万五、八四四万円、浜田と相殺した金九八六万二、九九〇円、浜田に手形により支払つた金一、九六四〇、六八一円の合計金四、一〇三万九、五一五円中には別口の金一六六万七、一〇六円が含まれているが、同別口分金一六六万七、一〇六円も同時に手形により支払われているのでこれを除く)。

三、原告の損害と被告らの後記過失行為との因果関係の存在について

前記関係各証拠認定事実によると、次のような事実が推認される。

(1)  原告は本件取引において浜田に本件鋼材の売買代金として現実に支払つた金一、七九七万三、五七五円につき損害を蒙つたものであり、これに反する原告及び被告らの各主張はいずれも採用できない。

(2)  原告の右損害は浜田の後記不法行為のうえに被告ら担当社員らの各過失行為が競合して発生したものであり、その間に因果関係が存在することは優に肯認できる。即ち、日高が後記過失により前記事実に反した本件鋼材の出入荷報告書等を被告トーメン宛に作成交付しなければ、被告トーメン担当社員も原告に対し後記過失により前記事実に反した物品受領書を発行しなかつたことは明らかであり、かつ被告トーメン担当社員作成の前記物品受領書が原告宛に作成交付されなければ、原告は浜田に対し本件鋼材の代金支払を拒んだ(原告は同物品受領書の交付を受けこれにより本件鋼材が原告から被告トーメンに引き渡されることを確認してその代金を支払つたものと認定される)ことも明らかである。

してみると、被告ら担当社員らの後記過失行為により原告の損害を発生し、その間に因果関係の存在、とりわけ後記事情を考慮すると相当因果関係の存在が優に肯認される。しかも原告の損害はその発生の前記経緯に鑑み本件のように倉庫保管中の商品を転売する商取引においては通常発生する普通の損害であつて被告ら担当者らにおいても容易に予見し予測しうるところであるから、これが特別事情に基づく特別の損害としてこれが予見不可能であつたとする被告城戸組の主張は採用できない。

(3)  なお、被告城戸組は前記入荷報告書や前記物品受領書は原告の浜田に対する本件鋼材の代金支払の契機又は一事情にすぎず、その原因はあくまでも売買契約上の代金支払義務であり、他方前記入荷報告書は単なる本件鋼材の在庫報告文書にすぎず同報告書を入手してその占有権を取得してもその所有権までは取得する筋合のものでもないので、たとえ同報告書の記載が真実に合致しそれを契機に原告が浜田にその代金を支払つたとしても、本件においては原告が本件鋼材の所有権を取得し被告トーメンにその移転をすることができなかつたので被告トーメンからその代金の支払を受けられず結局同様の損害を蒙つたことが明らかなので、原告の損害と前記入荷報告書の作成との間には法律上の因果関係を欠く旨主張するが、同入荷報告書に基づいて作成された前記物品受領書がなければ、原告は浜田に対し売買契約上の目的物件の引き渡し義務の履行のないことを理由にその代金の支払義務の履行を法律上も拒みうる(同物品受領書は浜田の原告に対する本件鋼材の引き渡し義務の履行が完了したことの証明文書である)のであるから、同物品受領書の作成交付は原告の浜田に対する本件鋼材代金支払の原因行為となつたことは明らかである。そして、原告がその代金支払を拒んでおれば原告の損害発生を防止しえたのであるから、同物品受領書の作成と原告の損害との間には法律上も因果関係の存在が肯認できる。

また、被告城戸組は前記入荷報告書記載の事実が真実に合致した限度で損害賠償責任は免責される旨主張するが、同報告書(原告と被告トーメン間の本件売買の前記前提事実の下では同報告書は鋼材の在庫状況を表示する以上に鋼材が原告から被告トーメンに引き渡され、それに伴つてその所有権の移転をも推測させるものである)が原因となりしかも同記載事実が一体となつて原告の損害発生の原因行為となつている本件においては、同被告の右主張は採用することができない。

四、被告らの損害賠償責任について

前記関係各証拠及び前記認定事実によると、被告らは左記理由により原告の蒙つた損害につき賠償責任を負うものである。

(一)  被告城戸組担当社員の過失につき

(1) 被告城戸組事務員日高孝子は、前記認定事実のとおり、被告トーメン担当社員山田敬一より前記荷渡依頼書記載の鋼材の在庫確認を求められその依頼に応じたのであるから、当時同倉庫には大量の鋼材があつてその現物確認が困難な状況にあつたとはいえ、その調査確認を引き受けた以上は適切妥当な方法により慎重かつ正確な調査確認とその回答をなすべき注意義務があるのにこの注意義務を怠り、当時晴海鋼業名義で在庫保管されていた鋼材約六〇〇トンを本件鋼材806.151トンと誤信して本件鋼材806.151トンが在庫しているものと判断し、他方そのころ、浜田から迷惑はかけないから本件鋼材806.151トンが既に原告から被告トーメンに引き渡された旨記載した入荷報告書の作成を依頼され浜田の言をそのまま軽信し、前記荷渡依頼書記載の物件と同在庫物件を現物照合したり、あるいは上司や担当責任者に相談しその調査確認を求めたり、その他関係書類の検討による調査確認も行わず、ただ浜田の指図どおりに事実に反した虚偽内容の「原告を荷主、被告トーメンを荷受人として本件鋼材806.151トンが入荷した」旨の入荷報告書、「被告トーメン発行の荷渡指図書と引き換えに本件鋼材806.151トンを佐藤商事に引き渡した」旨の出荷報告書、「被告トーメンを出荷主佐藤商事を荷受人として右鋼材806.151トンを出荷した」旨の出荷報告書等を各作成し、浜田の指示どおりに浜田商店事務員に持参させ被告トーメンに届けたことにより、原告は前記経緯理由で損害を蒙つたのであるから、日高には右真実に反する出入荷報告書等を被告トーメン宛作成交付したことにつき少くとも過失責任のあることは否定できない。

(2) なお、被告城戸組は、日高が不注意により事実に反する前記入荷報告書等を作成したとしても、同入荷報告書は被告トーメンの会社印も担当責任者印もない一社内文書にすぎず、これが元で原告がその主張の様な理由経緯で損害を蒙ることなどは全く異例のことでありその予見可能性も全くないので日高に過失責任を問えない旨主張するが、日高作成の前記入荷報告書等は前述のとおりたとえ社印や担当者印がなかつたとしても単なる一社内文書とはいえず、一旦同報告書が作成交付された以上は、その宛先の被告トーメンばかりでなくこれに基づいて順次転々と取引した関係者らも同記載の事実があつたものとして取引をするのが取引の実情であり、また、同報告書に虚偽の記載があると同記載事実を信用して取引した者がその過失の有無はともかくとしても何んらかの損害を蒙るおそれのあること(損害発生の予見可能性で足り、それ以上に損害発生の原因、被害者、損害額などについて被告城戸組主張のような具体的な予見可能性のあることまでは必要でない)も当然に予期されるところであり、被告城戸組で倉庫業に長年従事して来た日高としてはその経験からして右事情は決して予見不可能なことではない。また、被告城戸組はその他にも前述のとおり縷々述べて日高には過失がなかつた旨主張しているが、本件においては日高の過失責任を否定するような事情もうかがえないのみならず、かえつて前記認定事実による限りは日高に前記過失のあつたことが肯認されるのでこれらの主張はとうてい採用できない。

(3) してみると、右日高には前記入荷報告書を作成交付したことに過失責任のあることは否定できない以上、同報告書に起因して発生した原告の損害についても過失責任のあることは否定できない。

(二)  被告トーメン担当社員の過失につき

(1)  被告トーメン担当社員は、原告会社担当社員と本件売買契約を締結するに際し、原告会社担当社員から物品受領書用紙を手渡されて本件鋼材の在庫とその引き渡しの確認を依頼されてこれを承諾し、またその際原告は同物品受領書の返送を受けそれに基づいて浜田に対し代金決済を行うことを認識していたのであるから、同物品受領書の作成交付に当つてはその重要性に鑑み適切妥当な調査確認を行い、その正確を期すべき注意義務があるにその注意義務を怠り日高に面会しただけでその担当責任者にも面会せず、しかも同人のあいまいな口頭報告を真実と軽信したり、また同人が浜田の指図で作成した被告トーメンの会社印も担当責任者印もない前記事実に反する入荷報告書記載の事実を直ちに真実と軽信し、それ以上に原告が交付した前記荷渡依頼書記載の物件と在庫物件の照合も全く行わずに、本件鋼材は未だ入庫保管されていないにもかかわらず在庫のままでその引き渡しを受けた旨記載した事実に反する物品受領書を原告宛作成交付しその結果原告に損害を蒙らせたのであるから、被告トーメン担当社員には、前記事実に反した物品受領書を作成交付し原告に損害を蒙らせたことにつき、少くとも過失責任のあることは否定できない。

(2) なお、被告トーメンは縷々述べて同担当社員には過失はなかつた旨主張するが、前記証拠を仔細に検討してもその過失責任を否定すべき事情もうかがえないし、仮に被告トーメン主張のように本件鋼材の在庫確認が困難な状況にあれば原告にその旨述べて協力を求めるとかあるいは同確認が困難なために同物品受領書の作成ができない旨述べてこれを返送すべきである(同確認はもともとは売主としての原告がなすべきことであり、また売主の原告はより容易に調査確認できることが多い)が、一旦同物品受領書を作成する以上は適切妥当な調査確認によりその正確を期すべきである(調査確認が困難なため不正確な物品受領書を作成しても免責されるという筋合のものではない)のに、被告トーメン担当社員は前述のとおり必要かつ十分な調査確認もせずに日高の前記口頭報告や同人作成の前記入荷報告書等を直ちに真実と軽信し真実に反した前記物品受領書を作成したものであり、かかる観点からみても被告トーメン担当社員に前記過失責任のあることは否定できない。

(三)  被告らの責任につき

被告らは、前記のとおり、その各担当者らがその業務遂行過程において前記各過失により原告に与えた損害につき、その使用者として原告に対しそれぞれ損害賠償責任を負うものである。

五原告の過失について

(一)  前記関係各証拠及び前記認定事実によると、原告の損害発生につき、原告側にも次のような責任事由が認められる。

(1) 浜田は後日安宅産業から同会社が所有し被告城戸組倉庫に搬入保管する鋼材806.151トンを買い受ける予定であるのにかかる事情を秘しむしろこれを当然の前提として原告と売買交渉をし、他方、右鋼材について、原告は浜田に現在当然にその処分権があるものと信じて浜田からこれを買い受けて被告トーメンに、被告トーメンは佐藤商事にいずれも同倉庫に在庫のままで順次売り渡すという一連の売買がなされた。

しかも、大手商社である原告と被告トーメンは右売買に当事者として介在しているが、これは浜田の依頼により主として浜田と佐藤商事間の売買取引を可能にするために手数料を取得して介在しているので、実際は主として代金決済の点で介在しているにすぎず、また現物は被告城戸組倉庫に在庫のままなされるので、売買が順次行われるとしても主として書類中心にその取引が行われるものである。

かかる意味で、本件売買は原告主張のいわゆる「つけ売買」にあたり、被告トーメンも本件売買が通常の売買と異つていわゆる「つけ売買」であることを認識していたことも容易にうかがえる。

(2) しかし、本件売買が右のようないわゆる「つけ売買」でその所有権の移転やその引き渡しが主として書類に基づき在庫のままで簡易に行われるのが通例であるとしても、これが売買でありしかも原告が売主として介在している以上売主としての義務を免責させるような特段の事情もうかがえない本件においては売主としての義務を免れうるものではなく、原告は被告トーメンに本件鋼材の所有権を移転したりその引き渡しをなす義務を負うものであることは多言を要しないところである。従つて、原告は同義務を履行するためには自らも浜田からその所有権を取得したりその引き渡しのためにその在庫確認を行う義務を負うものである。

(3) ところで、原告は被告トーメンと本件売買契約をする際本件鋼材の所有権取得やその在庫確認を全く行わなかつたために本件鋼材が安宅産業の所有物件で未だ浜田所有物件として被告城戸組倉庫に搬入保管されていなかつたにもかかわらず、浜田がその所有権を取得し、同倉庫にこれを保管しているものと信じ、さらにこれを当然の前提として本件売買をし、買い主の被告トーメンにその在庫と引き渡しの確認を依頼して承諾させたり、また原告としては何んの指図権限もないのに被告城戸組に対する被告トーメンへの荷渡依頼書や物品請求書を作成交付したもので、被告トーメン担当者としても本件鋼材が未だ安宅産業の所有物件で浜田所有物件として同倉庫に搬入保管されていないことなど全く知らず、安易に本件売買をしたうえ、原告の依頼に安易に応じて本件鋼材の在庫と受領の確認を引き受けたものである。

被告トーメン担当者が原告主張のように正確を期すために適切妥当な調査確認義務を尽くさなかつた前記過失があつたとしても、その一因は原告会社担当社員の言を信じ本件鋼材は浜田に処分権があり、しかもそれが同倉庫に当然在庫しているものとしてこれを買い受けその確認を引き受け、鋼材の在庫確認に終始したことにある(被告トーメンとしても原告から真実を聞かされて本件売買をしたり調査確認をする場合にはより慎重かつ正確を期したことは容易にうかがえる。)。従つて、原告としては本件売買がいわゆる「つけ売買」であることや被告トーメンが本件鋼材の在庫と引き渡しの確認を引き受けたことを自己に有利に援用し、自己の落度を棚にあげこれに誘発された被告らの落度のみの一方的な追及に終始することは信義則上許されない。

また、原告は今迄にも浜田とたびたび取引をし、最近の浜田の信用状態が芳しくないことも知りその債権の回収に苦慮していたのであるから、浜田との本件売買においても同人から本件鋼材を確実に買い受け被告トーメンに確実に売り渡すよう売主としての義務を尽くすべきであるにもかかわらず、浜田を信用し浜田が本件鋼材の所有権を取得しかつこれを同倉庫に保管しているものと軽信し自らその調査確認を全くなさず、また本件鋼材の原告から被告トーメンへの引き渡しを浜田から被告トーメンに直接引き渡すという方法によつてではあるが浜田に一任したり、被告トーメンから前記物品受領書の返送を受けるやその代金支払いを急いだ浜田に何んの疑念も抱かずに直ちにその代金を手形により支払つたものであり、原告の右のような浜田を過信した一連の言動がかえつて浜田の不法行為を誘発助長させた一因となつたことも否定できない。

(4) してみると、本件売買が原告主張のようないわゆる「つけ売買」であるとしても、原告は自らなすべき調査確認の義務(書類中心でもその所有権帰属や在庫確認はできたはずである)を怠り、前記一連の落度のある言動に出たために、これに起因して被告らの前記過失行為が誘発され、原告自らもそのために損害を蒙つたのであるから、原告にもその損害の発生を防止しないのみかかえつてこれを誘発助長させた過失行為のあつたことは明らかであり、原告の損害額の算定に当つては原告の右過失行為は十分斟酌されるべきである。

六原告及び被告らの各過失の度合について

(一)  原告及び被告ら(各担当社員)には原告の損害発生につき前記過失のあることは前述のとおりであるが、他方前記関係各証拠及び前記認定事実によると、原告の損害発生につき浜田の果した役割には大きいものがあることが認められる。即ち

(1) 浜田は後日安宅産業から鋼材806.151トンを買い受け被告城戸組倉庫に搬入保管する予定であるのに、かかる事情を秘し本件鋼材は現に浜田が所有し同倉庫に保管中であることを前提に原告と本件売買をし、そのため原告と被告トーメン間にも同前提の下に本件売買契約をさせるに至り、さらにその後日高に対し前記虚偽の本件鋼材の出入荷報告書等を作成させたり、また同出入荷報告書記載事実を真実と誤信してトーメン担当社員が作成した前記物品受領書によりその旨誤信した原告から本件鋼材代金の支払いを受けながら、結局売主としての本件鋼材の所有権を移転したりその引き渡しの義務を履行せず、原告に前記損害を蒙らせたのであるから、原告の損害は浜田の右不法行為に起因するところが大きいといわざるをえない。

(二)  しかし、前記のとおり、原告の前記損害は、原告及び被告らの前記過失行為が浜田の右不法行為に付加競合してその損害を発生させたものであることも否定できない(浜田の不法行為により被告ら担当者らの過失行為と原告の損害との因果関係が中断するものではない。)。

そして、原告の前記損害発生に対する右浜田、原告及び被告らの寄与の度合及び損害の公平な分担という観点からの各自の損害分担割合を検討考慮すると、前記認定事実の下においては、浜田の二、原告及び被告らの各一の割合にそれぞれ認定することが相当である。

七被告らの各損害賠償額及びその関連性について

(一)  原告は前記のとおり金一、七九七万三、五七五円の損害を蒙つたが、前記各寄与分担度合に応じて浜田、原告及び被告ら各自の損害賠償額を算定すると、浜田は金七一八万九、四三〇円、原告は金三五九万四、七一五円、被告らは各自金三五九万四、七一五円となる。

(二)  次に、浜田及び被告らの前記各損害賠償債務の性質とその関連性についてみるに、原告の前記損害は浜田の右不法行為の遂行過程において被告ら及び原告の前記各過失行為がこれに加担競合して発生したものであるから、これらが関連共同の関係にあることは否定できないけれども、さらに浜田と被告らの右各行為をみると、前記認定事実の下で全体的にみる限り、浜田と原告の右各行為の関係と同様に関連共同の関係というより関連対立の関係にあるので原告に対し共同不法行為の関係というよりは加害者と被害者の対立関係にあるものと解されるし、また公平の観点からもそのように解することが相当である(被告らの前記寄与の度合は浜田のそれと比較するとその二分の一にすぎないが、他方被告らと原告の同寄与の度合に差異がないとすると、浜田との関係では被告らは原告と同様に共同不法行為者というよりむしろ被害者側に位置づけることの方が公平にかなう。そして本件においては原告と浜田との間で解決すべき損害額と解する。これに反し被告らと浜田を共同不法行為者としその損害賠償責任に不真正連帯債務の関係を認めると被告らの浜田に対する求償権行使が事実上不可能である(原告は浜田に対し損害賠償請求ができないので本訴請求した)ために被告らが浜田の賠償額も負担することとなり被告らの不利益において原告を著しく優遇しかえつて公平に反する。要は、本件では被告らは前記過失行為のために原告の損害をどの程度填補すべきか、不法行為と損害賠償額の均衡性、相当性しいては相当因界関係によるその損害額の限定の問題である)。しかし、被告らと原告との関係では、被告らの前記各過失行為は原告の損害発生に対し前記のとおり加害者と被害者の立場に分れ関連共同の関係にあることは否定できないので、共同不法行為が成立し、被告らの原告に対する前記損害賠償債務は不真正連帯債務の関係にあるものと解するのが相当である。

(三)  そうすると、原告は前記認定のとおり金一、七九七万三、五七五円の損害を蒙つたのであるから、被告らは原告に対し各自(不真正連帯債務としてではあるが)その五分の二(各五分の一は被告らの各負担部分にすぎない)の割合の金七一八万九、四三〇円の損害賠償債務を負担することになる。

第二前記第一、一三〇号損失金請求(反訴)事件について

一請求原因一項記載の事実中、被告トーメン主張の当事者間で本件鋼材の売買契約が締結されたこと、被告トーメン主張の売買の目的商品、引渡場所、売買代金及び代金決済方法等の約定の下で右当事者間において右売買がなされたこと、同二項記載の事実中、被告トーメンと佐藤商事間に被告トーメン主張の売買契約が締結されたこと、被告トーメンは原告に対しその主張の催告をしたこと、同三項記載の事実中、同(1)については被告トーメンは原告に対しその主張の約束手形三通を振出交付したこと、被告トーメンはその主張の理由で同約束手形三通の返還を求めたが、原告はその返還を拒み被告トーメン主張の支払呈示をしたこと、被告トーメンはその主張の供託をしたことについては当事者間に争いがない。

二そこで、被告トーメンの損害発生の経緯につき検討するに、<証拠>を総合すると、原告と被告トーメン間に本件鋼材につきその主張の前提の下で本件売買契約が締結されたこと、同売買契約に続いて佐藤商事と被告トーメン間にその主張の売買契約が締結されたこと、本件鋼材は原告の所有物件ではなくまた被告城戸組倉庫に搬入保管されていないことが後に判明したので、被告トーメンは原告に対しその主張の催告をしたが、原告が被告トーメンに対しその主張の義務を履行しえなかつたので、被告トーメンはその主張の日時にその主張の方法により本件売買契約を解除したこと、被告トーメンは佐藤商事との間の前記売買契約の履行が不能になつたので金四〇万三、〇七一円の得べかりし利益を喪失したこと、被告トーメンは原告に対しその主張のころ本件売買代金支払のためにその主張の約束手形三通を振出交付したこと、被告トーメンはその主張の理由により本件売買契約が解除されたので原告に対しその主張の約束手形三通の返還を求めたが原告はその返還を拒み被告トーメン主張の期日にその支払呈示をしたこと、被告トーメンはその主張の供託をしてその主張の約束手形三通を供託不渡にしたことが認められ、他方本件全証拠を仔細に検討しても同認定を左右するに足りる証拠はない。

三次に、被告トーメンの損害につき検討するに、<証拠>によると次の事実が認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  得べかりし利益 金四〇万三、〇七一円

被告トーメンは、原告との本件売買契約を解除したので、佐藤商事との本件売買契約は履行不能となり前記得べかりし利益金を喪失した(本件売買が原告主張のいわゆる「つけ売買」であるとしても、原告の損害賠償責任は当然に免責されるものではなく、本件ではかかる事情もうかがえない)。

(二)  不渡防止に要した費用 金四八三万六、一五四円

前記債務不履行のために本件売買契約が解除されたので、原告は被告トーメンからその代金支払のために受取つた本件約束手形三通の手形上の権利行使はできず同手形は同被告に返還すべきであつたし、事実被告トーメンからその返還請求を受けていたにもかかわらずこれをかたくなに拒み、かえつてその支払期日の昭和五〇年一一月三〇日にその支払場所でその支払呈示までした。そこで、被告トーメンは同日不渡措置回避のためにやむをえず右約束手形の合計額面金四、〇三〇万一、二八一円を供託しその不渡措置を回避しえたが、同供託は手形交換規則により手形不渡措置回避のために最低二年間持続しなければならなかつた(被告トーメンは同期間持続した)ので、その間少くとも右供託金に対する年六分の割合による金員相当額の金四八三万六、一五四円の損害を蒙ることとなつた。

従つて、被告トーメンは右(一)、(二)の合計金五二三万九、二二五円の損害を蒙つた。

四(一)  原告は被告トーメンが損害を蒙つたとしても被告トーメン担当者の前記過失によるもので原告には過失がなくその賠償責任はない旨主張するので検討するに、前記認定の事実によると、原告が被告トーメンと本件売買契約を締結する際浜田の言を信用し本件鋼材の所有権の取得や在庫の確認を全く行わなかつたために、本件鋼材が安宅産業の所有物件でありかつ浜田所有物件として被告城戸組倉庫に搬入されていないにもかかわらず、浜田がその所有権を取得しかつ同倉庫に保管しているものと軽信してこれを当然の前提として本件売買を締結し、また被告トーメンも同前提の下に本件売買に応じ原告の履行を確信して佐藤商事と本件鋼材の転売契約までしたところ、後日浜田が本件鋼材の所有権を取得していなかつたこと、従つて原告も当然その所有権を取得していなかつたことが判明し、また原告はその後においても被告トーメンに対しその催告にもかかわらず本件鋼材の所有権を移転したりその引き渡しの義務を履行できなかつたので、被告トーメンは本件売買契約を解除しその結果佐藤商事との関係での前記得べかりし利益を喪失したのであるから、被告トーメンの右債務不履行に基づく損害の発生につき原告には少くとも前記過失責任のあつたことは否定できない(原告は帰責事由のないことを立証すべきであるがその立証もない)が、他方被告トーメンには原告の右債務不履行に限つてみれば過失責任のあつたことまでは認められない。

(二)  また、原告は、自らの帰責事由に基づく債務不履行により本件売買契約が解除されしかも被告トーメンからその返還請求を受けた後においても、前記のとおり本件約束手形三通の支払呈示をし被告トーメンに少くともその主張の前記損害を蒙らせたものであるから、原告には被告トーメンの損害発生につき少くとも過失のあつたこと(原告は本件売買がいわゆる「つけ売買」であつたから本件手形上の権利はその主張の理由で是認されるとして本件手形上の権利行使をしたと主張するが、「つけ売買」を理由に直ちにその権利行使が肯認されるものとはいえず、他に本件手形上の権利行使が是認されることをうかがわせる特別の事情も認められない本件(原因関係を欠くため手形上の権利行使ができないことが明らかな)においては、本件手形上の権利行使により被告トーメンに前記損害を蒙らせたことにつき、原告に少くとも過失のあつたことは明らかであつてその賠償責任は免れえない。

なお、被告トーメンの前記過失は原告の前記損害発生に関するものであり、被告トーメンの損害発生とは別個のものであるから、被告トーメンに前記過失があつたために同被告の右損害発生に当然に過失があつたとする原告の主張は採用できない。

(三)  してみると、原告には被告トーメンの前記損害発生につき少くとも過失責任のあつたことは否定できないのでその賠償責任は免れえないし、他方原告主張の過失相殺の抗弁は被告トーメンにその主張の過失が認められない以上はその余の点につき判断するまでもなく失当としてこれを採用することはできない。

第三結論

以上の次第で、原告の被告らに対する本訴請求は、原告が被告ら各自に対し金七一八万九、四三〇円及びこれに対する被告トーメンについては昭和五三年一〇月六日から、被告城戸組については同月七日から年五分の割合による各金員の支払を求める限度でいずれも理由があるのでこれをそれぞれ認容することとし、原告の被告らに対するその余の請求はいずれも理由がないのでこれらをそれぞれ棄却することとし、被告トーメンが原告に対し金五二三万九、二二五円及びこれに対する昭和五〇年一二月一日から支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払を求める本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言及び仮執行の免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(小林一好)

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